体験談

前回は安産指導がなく帝王切開になった

K.M.

師長: 当院では、母親学級などで実際お産された方の体験談をきいて頂いています。今回は2人目ですが当院では初めての出産でした。まず、前回の妊娠・出産からお話して頂けますか。

Kさん: 私はもともと愛知県の出身で、1人目は現在2歳になりますが、妊娠した時は、主人の転勤で尾道にいまして、その時は里帰り出産をしようと考えていて33週まで尾道にいました。その時は、あまり産む事に関しては、自分で産むという意識が無くて、疑問も感じていませんでした。それで、散歩するといっても週に1~2回20分くらいする程度、特に運動もせず、体重も増えすぎて、里帰りしたんですが、愛知の病院で、初めて赤ちゃんが全然下がっていないと言われて、それから慌てて雑巾がけや散歩を1時間くらいしました。
それでも、1週間経っても、2週間経っても下がらず、予定日の1日遅れで陣痛がきて入院したのですが、やっぱり下がってこない。そうしている間に赤ちゃんの心音が下がってしまい、どうしよう……という事で、促進剤を使って、陣痛を強めようという事になりました。でも結局帝王切開になりました。その時は陣痛も耐えられなくて、子供もそっちの方が安全だからと言われて切ってしまいました。でも切ってしまって、後で後悔しました。

院長: 陣痛促進剤はどのくらいしたんですか?

Kさん: 夕方の5時くらいに始めて、それから5時間後に帝王切開しようという事になりました。その後が本当につらかったです。
切った後が動けないので、苦しかった記憶がすごいんです。 赤ちゃんを抱っこも出来ないし、今思えば、日浅先生の言うような運動をしていなかったのもいけないし、産む事に関してなんにも思っていなかったのがいけなかった……。

院長: いけなかった、というよりその指導があったんですか?

Kさん: 尾道では、全く無かったです。中期に入ってからは内診も無かったです。中期に不正出血がしばらく続いたんですが、その時に診察する程度で、「異常は無い、異常は無い」と言われました。

師長: これはKさんだけではなくて、初めてお産される方は、安産指導があるとか無いとか、まずわからない。多くの人は、妊娠したら、自然に陣痛がきて、自然に赤ちゃんが産まれて、おっぱいも普通に出て、赤ちゃんは何の迷いもなく吸ってくれる、それが当たり前だと思っています。
でも、そうじゃない人もいます。人それぞれ体型も違うし、体質も違います。赤ちゃんの大きさも違うし、赤ちゃんにも産まれながらの個性もあります。だから健診で定期的にチェックしている先生や助産師さんに、貴女は安産のために何が必要かという事、その人にあった安産指導が無いと、初めての方の中には大変な思いをする方も実際いらっしゃいます。

院長: 安産指導をする事は当たり前です。でも、ほとんどの産科医は安産指導をしません。そこが大いに問題ですし、産婦さんもそれを希望しないところも不思議です。

Kさん: 普通に産まれる、と勝手に思い込んでいたんです。

師長: でも先生が「順調です」と言ったら、普通に産めると思いますよね。

Kさん: 思っていましたし、安心していました。

師長: 36週、10ヶ月に入って赤ちゃんが高いですよ、と言われて自分なりに努力されたようですが、病院からは具体的にどのような指導があったんですか?

Kさん: 「運動してください」のひと言です。

院長: 尾道では赤ちゃんの頭が高いとは言われませんでしたか。

Kさん: 具体的な事は無かったです。

師長: それは安産指導が無かったという事です。今回当院を選ばれた理由は?

Kさん:  転勤で今治に来て、1年くらいしか経ってなかったので、周りにきいてもよくわからなくて、インターネットのホームページを見て、体験談の中に1人目帝王切開の人の話があって、2人目は下から産まれたというのを見て、こういう体験をされている人もいるというので、どうしようと迷いました。周りは「1人目切っているから、今回も切った方がいいんじゃないか」と言われて、1ヶ月くらい悩んだんですが、そうしている間に出血したんです。それで、ここに来ました。

師長: 1人目帝王切開だと、次も帝王切開という施設が確かに多いですが、試みてくれる施設もあります。当院でも15%の方が下から産んでいます。それには、1人目どんなお産をしているか、にも影響されます。Kさんは前回8㎝開いたという事、そして何よりご本人が下から産みたい、頑張ってみようという事で、先生の安産指導に沿って、動いたんですよね。

Kさん: はい、今回は頑張りました。

師長: 具体的にはどんな日常生活をしましたか?

Kさん: 上の子供がいるので、100%自分の時間が使えるわけではなかったんですが、ベビーカーに子供を乗せて1時間買い物に行ったり、あとしゃがみ込みは早くからやったり、産まれる頃は900回していました。

師長: カルテでは9週、3ヶ月から200回しています。

Kさん:  私、やっても大丈夫だったんです。多少おなかが張っても全然大丈夫で、1ヶ月くらいして、しゃがみ込んだ時、膝が開くようになってきました。

師長: マタニティー・ヨーガにも参加して頂いていたんですが、子供さんがいるので、毎月日曜日に来られてましたよね。

Kさん: はい、月1回で5回来ました。もっと来たかったんですが、子供がいるので。

師長: やはり、1人目の経験をもとに今回は自分で産もうという意志が芽生えてきましたよね。

Kさん: 下から産むにしても、おなかを切るにしてもリスクはあると思いますが、下から産みたいし、主人と相談して決めたので。今、単身赴任してますが。

師長: ご主人が転勤で、お母さんに愛知から来て頂いていたんですよね。しゃがみ込みやヨーガ、日常生活の中での安産体操をして、今回は下から産まれました。今回は37週と少し早かったのですが、前回は40週でしたよね。38週前と40週では、赤ちゃんの大きさも違いますから、良く動いて早く陣痛が来たのも良かったんでしょうね。

Kさん: 陣痛が来る前の日に2時間歩いたんです。それからちょっと軽い陣痛が始まりました。

師長: いい刺激になったんでしょうね。
実際の経過を少し話しますと、4月16日の14時過ぎに陣痛が始まったという事で入院されました。それまでも赤ちゃんの頭がよく下がっていて、先生も50%の確率で下から産めるだろうという事でした。陣痛で入院された時、子宮口は2.5㎝開いていて赤ちゃんもよく下がっていたようです。陣痛は5~7分おきにきていましたが、開かなかったら帝王切開しないといけないという状況でした。当院では、まずリラックスして頂くために、お風呂に入って頂いていますが、陣痛の時に入ってどうでしたか?

Kさん: 楽になりました。痛みがきてもそれ程強く感じませんでした。
逆に、お風呂から出ようとすると、陣痛が強く感じてなかなかお風呂から出られませんでした。

師長: ちなみに前回は風呂に入りましたか?

Kさん:  いえ、入っていません。

師長: それは、赤ちゃんの心音が下がったから入れなかった?それとも、病院事態にそういうのがなかった?

Kさん: もともと病院になかったです。

師長: お風呂は体が温まってお産が進む場合があって、Kさんもお風呂に入って痛みが強くなってきました。
お風呂から出て、座っているのが楽という事で、しばらく風呂イスに座って天井からぶら下げてある産綱につかまっていましたが、16時過ぎには4㎝になり、痛みも強くなってきました。痛みが強くなると気分が悪くなる人がいます。Kさんも気分が悪くなって、陣痛のために気分が悪いというのもありますが、前回帝王切開の場合は体の防御作用のようなもので、気分が悪くなる場合があります。

先生に診察をして頂きながら、様子を見ていたんですが、子宮口も5~6㎝と徐々に拡がってはきていたんですが、まだ時間はかかるかも?といった感じでした。そうするうちに、前回と同様で心音が陣痛に合わせて下がり始めたんです。それで、診察の結果帝王切開に踏み切ろうという事で、本人や家族の方に説明し、帝王切開の準備を始めました。その間、当院では、フリースタイルをしていますから、酸素を投与しながら、心音もききながら、横向きでも色々と左を下にしたり、右を下にしたり座ったりして体位を変えました。すると、陣痛が一段と強くなり、赤ちゃんの心音の下がり方がちょっと少なくなりました。診察の結果下から産まれるかも?という事で、すぐストレッチャーで分娩室に行き、無事1回の吸引で赤ちゃんが産まれました。

Kさん: 私はもうパニックでした。

師長: 急に強い陣痛がきて、本人さんはつらかったと思いますが、今回と1人目の違いってなんだと思いますか?

Kさん: 自分の意識の違いだと思います。

師長: 例えば、1人目8㎝まで開いたでしょ。妊娠中にしゃがみ込みや散歩とかしていたら、今回と同じように赤ちゃんの心音が下がってもさーっと産まれたかもしれないですよね。そう考えると、やはり初めのお産が大切で、自分の意識はもちろん安産の取り組みというのもこういったぎりぎりの時に影響されます。
でも、前回の病院が何らかの処置で8㎝開大まで頑張ってくれたんですから、その点は感謝です。帝王切開の手伝いをお願いしていた井上先生もびっくりしていましたね。

Kさん:  帰られる時、奇跡だって言われました。

師長: 最後に、今日は経産婦さんもいらっしゃいますが、妊娠中にしたら良い事や、お産の時にしてもらいたい事があれば。
後、これから妊娠するかもしれない女性に、もしアドバイスを言うとしたら?

Kさん: 陣痛時に力を抜く事が必要だと思うので、マタニティー・ヨーガでの呼吸法をやると良いと思います。
私は帝王切開後に水も飲めず、下半身の感覚もなく動けずで、苦しい記憶ばかりが強く残っていましたが、今回、下から産めて自信がもてました。お産はつらかったですが、自分で産んだという達成感はかけがえのないものです。私のように後悔しないように頑張って下さい。
これから妊娠するかもしれない女性には、病室がきれい、産後の食事にフルコースが出るなどの情報が目立ちますが、それよりも、妊娠中の長い期間をどう過ごすか、どう産みたいかを考えて産院選びをして欲しいと思います。

院長: 最近の若い子の中では、帝王切開の方が楽じゃーん、という人もいますが、そんな事はないですよね。

Kさん: 絶対ないです。陣痛は苦しかったですが、帝王切開による傷の痛みは今もあり、そもそも回復度が全然違います。1ヶ月たっても帝王切開した場合はふらついたりしていました。

師長: Kさんも言われるように、まず、自分がお産をするという意識をもつ事が大切だと思います。誰かが何とかしてくれる、○○病院に行けば産ませてくれる、というものではありません。
以前他院で出産予定の方ですが、自分がかかっている病院がどんなお産をしているか、知らない方がいました。それも1人や2人ではありません。分娩台でする、という事さえも知りませんでした。
でも、先程も言ったように、初産婦さんはお産の事がわからないんです。何を医者にきいたら良いのか、妊娠中はどんな事が出来るのか、またどんな事をしたら良いのか、どんな出産方法があるのかもわからないのです。だから身近に、具体的にどんな事をしたら良いか、一緒に考え、アドバイスしてくれる人が必要になってくるんだと思います。それは、お母さんであったり、ご主人だったり、出産経験者でも良いと思います。

院長: ほとんどの病院で安産指導が行われていない現実をなんとか変えなければ、と願いながら我々は一所懸命にお産に取り組んでいます。ですから貴女のような体験者がどんどん主張していかなければ、今のお産は絶対に変わりません。

師長: これからお産する方は、自分がお産する、自分が産むという意識をもって、まず色々な情報を集め、沢山の選択肢の中から自分のお産を考え、そのためにはどうしたら良いのか、また出産だけでなく、産後の指導、例えば母乳に関してでもそうですが、そういったトータル的な事も考えながら、病院選びをして欲しいし、またみなさんには助言をして欲しいと思います。

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