体験談

骨盤底が開く意味と自然分娩

I.Y.

師長: 前回は帝王切開、今回は経膣分娩でお産されたIさんに、前回と今回のお産にどんな違いがあったか、アクティブ・バースを理解するためにも大いに参考になりますので、感想を聞かせて頂きたいと思います。

師長: 1回目の妊娠の時はどのように過ごされていましたか。

Iさん: 1回目の妊娠の時の知識というのは、本の中でしかなく、院長先生からヨーガを勧められても一切参加しなくて、安産コース(外来受診時、15分くらいで出来るしゃがみ込みを中心とした運動)も1度も回りませんでした。また、開脚も全くしていませんでした。私がしていたのは唯一散歩だけで、1日2時間くらい歩いていました。

師長: 36週頃から入院まではどんな様子でしたか。

Iさん: 36週の健診の時に赤ちゃんがまだ下がっていない(sp-4cm)という事で、それからも歩いたのですが、37週の早朝に破水し、それと同時に陣痛がきて入院しました。

師長: 入院してから帝王切開になるまでどのような経過でしたか。

さん: 入院した時、子宮口は1cmしか開いていなくて、痛みに対しての不安と緊張だけがいっぱいになっていました。またスタッフ2人がついていてくれたのですが、途中色々言ってくれても、全く体がいうことを効きませんでした。深い呼吸も出来なく、足も85度ぐらいしか開かなくて(それまで体が硬い事に気がつかなかった)、次の日の朝まで苦しみました。しかし全然だめで、(9cm開大 sp+0cm)、院長先生から話があって、とりあえず吸引分娩してだめだったら帝王切開という事になりました。けれど、それも効果なく、結局帝王切開になりました。
その入院中、帝王切開を1度したら次も帝王切開になるものだと思っていたのですが、先生から、「次は下から産もうね」と言われ、次は下から産みたいという気持ちになりました。

師長: 精神的にも緊張し体も硬く、帝王切開になったのですね。ところで2回目の妊娠中の生活は、1回目とどこが違っていましたか。

Iさん: 今回妊娠して、最初に診察に来るまで、3週間あったのですが、その間にも家で開脚をしていました。5ヶ月に入った頃から、院長先生にヨーガを勧められ、6ヶ月からはほぼ毎週参加していました、安産コースも必ず回るようにしていました。
家では散歩は十分出来なかったので、家の中で出来るようなしゃがみ込みや開脚をひたすらしていました。主人とか周りの人は絶対次も帝王切開だと言っていましたが、院長先生だけが「次は下から生めるから……」と言ってくれました。

師長: 妊娠初期から、かなり積極的に安産運動をしたのですね。妊娠後期はどうでしたか。

Iさん: 8ヶ月の終わりに赤ちゃんが下がりすぎていたので安静にと言われて、9ヶ月に入った時も熱(腎盂腎炎)で6日間入院しましたが、退院してからまた動き始めました。

師長: 陣痛が始まって、入院するまでの様子はどうでしたか。

Iさん: 38週に入った11日の朝9時におなかの痛みで目が覚めました。多分生まれても次の日だろうと考え、陣痛の合間にものんびりとしゃがみ込みや開脚をしていました。11時過ぎに母と一緒に病院に着いた時には陣痛も強くなり、子宮口は結構開いていました。

師長: そうですか。病院に来てからの経過は速かったのですが、その様子を話して頂けますか。

Iさん: 入院して約1時間で吸引も必要なく、簡単に出てきてくれました。
自分が一番安産だった事にびっくりし、前回とは全然違っていたので、前回のお産は一体何だったのだろう、と思いました。

師長: 来て1時間ですよね。超びっくりだったねえ。ちなみにね、1人目が大きくて2人目が小さかったから生まれたのではないか、と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、1人目の赤ちゃんが2880g、2人目が2830gでほぼ同じ、むしろ、頭は2人目の方が大きかったようです。何が違うかというと、妊娠中の運動が全然違っていたからねえ。……で、体重の増え方はどうでしたか。

Iさん: 1人目が10kg 、2人目が8kg。

師長: やはり、それも良かったのでしょうね。体重は出来るだけ抑えておいた方が安産に繋がりやすいと思います。それと、1人目の時のカルテにも書かれているのですが、やはりマタニティー・ヨーガをしていたら生まれていたケースであろう、と院長がカルテに書いています。
マタニティー・ヨーガの中に開脚とかしゃがみ込みがありますが、それにより骨盤底が開き、赤ちゃんが出てきやすくなるわけです。それが、下から生むための最大の条件ではないかと思います。

院長: 私はいつも言うのですが、体が柔らかい事はお産の時、重要です。Iさんが1人目、陣痛で入院された時85度しか開脚出来ず「こりゃ何だ!」と思わず叫びました。その時、私は大いに反省しまして、体の柔らかい事を目で見て、外来で本人にも簡単にわかる方法として開脚テェックを徹底しようと決心した訳です。

師長: 安産コースは5ヶ月からして頂き、切迫早産気味にもなりました。
その後もしっかり動かれていたのが良かったと思います。みなさん、この方は自然出産であるアクティブ・バースの貴重な体験者です。参考にしてください。

【院長考察】
Iさんは細身でもあるし、1人目は赤ちゃんも大きくないから、多くの場合安産指導がなくても安産のケースです。しかし、開脚度が悪かった(85度)ところをみると、安産体操もしなかったために、本来体が非常に硬く骨盤底が十分に開かなかったのでしょう。入院してからの自然出産方だけでは経膣分娩は出来ませんでした。
しかし、2人目は妊娠中から自然出産の準備(マタニティー・ヨーガとその他の安産体操を)を積極的に行い、途中では切迫早産気味となり、一時期体操を中断した程です。前回帝王切開であったにもかかわらず、今回は逆に超安産(座位分娩)であったのは何かよほどの理由があるはずです。それは、骨盤低が十分に開いていたという事。

このケースから、妊娠中からの運動の重要性を改めてうかがい知る事が出来ます。すなわち、経膣分娩しようとするなら入院してからの自然出産実施だけでは不十分で、妊娠中から時間をかけた準備が必要である事がわかります。

このように、自然出産によって、経膣分娩か帝王切開かのボーダーラインのケースが救われ、また難産が安産に変化したために不必要な機械的処置(帝王切開、吸引、鉗子分娩など)、あるいはその他の医療的処置も減少するため、遭遇する必要のない大小のトラブル(子宮破裂、新生児脳性マヒ、大出血、輸血、大きな軟産道裂傷、膣壁血腫、胎便吸引症候群、母体・新生児の発熱・転送など)が減少するのです。
また、帝王切開といえどもそれだけで終わらず、手術であるからにはやはり大小のトラブルが付随してくるのも当然で、非常に稀ですが重大な結果(母体死亡、生死のさまよい、肺塞栓など)をもたらす事も事実です。実際に帝王切開の増大に伴うトラブルの増加が、問題になりつつあります。更には次のお産も帝王切開の確率が高くなる事です。施設によっては、次も全例帝王切開にする場合があり、その場合は帝王切開による危険性が将来1度2度訪れる事になります。しかし、この事が伏せられて初回の帝王切開がなされているのが現状なのです。

以上が、これからの出産は産婦人科医の不必要な負担と産婦の被害を軽減するため、あるいは達成感による自己成長をもたらすためにも自然出産志向が必要な理由です。
そのためには、出産が自然現象である限り、どんなに医学が発達しても望まない結果はゼロではない事をまず最初に認めることが必要です。

最後に今後も自然出産の議論が高まると期待されますが、自然出産とは現代産科医療の枠組みの中で、自然のリズムに合わせるようにしてお産を導く方法・過程であって、決して医学的介入や処置を必要としない軽いお産を言うのではありません。
したがって、自然出産を行い最終的に帝王切開となっても自分自身が結果に納得し自己成長があれば、それも自然出産です。そのあたりをはっきり認識して自然出産の議論を進める必要があるのです。

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